学会活動Activity

テーマ1: 統合失調症とは何か

監修: 日本精神神経学会 前理事長
東北福祉大学大学院精神医学教授 佐藤 光源

[テーマ1] 統合失調症とは何か

国立精神・神経精神センター精神保健研究所
成人精神保健部部長
金 吉晴

 日本精神神経学会は2002年8月、1937年から使われてきた「精神分裂病」という病名を「統合失調症」に変更することに決めた。それに伴い、厚生労働省は精神保健福祉法に関わる公的文書や診療報酬のレセプト病名に「統合失調症」を使用することを認め、同年8月に各都道府県・政令都市にその旨を通知した。現在、メディアや出版業界など多くの領域で、精神分裂病を統合失調症に変更する作業が進められている。

紹介

 統合失調症とは、思考や行動、感情を1つの目的に沿ってまとめていく能力、すなわち統合する能力が長期間にわたって低下し、その経過中にある種の幻覚、妄想、ひどくまとまりのない行動が見られる病態である。能力の低下は多くの場合、うつ病や引きこもり、適応障害などに見られるものと区別しにくいことがあり、確定診断は幻覚、妄想などの症状によって下される。幻覚、妄想は比較的薬物療法に反応するが、その後も、上記の能力低下を改善し社会復帰を促すために長期にわたる治療、支援が必要となる。
 ある目的に沿った、一貫した思考や行動をすることは、実は健常者でもあまりできないことがある。とりわけ疲労、ストレス、不安、身体疾患の時などには、こうした統合機能は動揺しやすい。そうした不安定な状態が長引いて経過中に幻覚や妄想が出現し、その鎮静化のために投薬を必要とし、再適応のために心理社会的なリハビリテーションを要する状態が、統合失調症である。確定診断のためには、下記に述べるように幻覚や妄想などの重い状態を手がかりにすることが多い。しかし実際の治療においては、そうした急性状態の続くことはむしろ少ない。多くの患者は、健常者でも経験し得る統合失調という状態のなかで、社会復帰のための努力をしているのが現状である。
 統合失調という症状によって最も影響されるのは、対人関係である。複数の人間の話し合う内容が、いったい何を目指しているのか、その場の流れがどうなっているのか、自分はどう振る舞ったらよいのか、ということが分かりにくい。そのために、きちんとした応対ができなかったり、時に的はずれな言動をしたり、後になってひどく疲れたりすることがある。また、ある一連の行動を、自然に、順序立てて行うことが苦手となる。着替えをする時の順番を忘れたり、料理が得意であった人が、その手順を思い出せなくなったりする。
 この病気の原因は十分明らかにされておらず、単一の疾患であることにさえ疑いが向けられている。
しかしながら、何らかの遺伝的な脆弱性と環境的な負荷、とくに対人的な緊張が重なって発病に至ることは、ほぼ認められている。とくに再発に関する研究では、家族のなかで、人を批判するような内容を強い口調で言い合うことが、患者の緊張を高め、再発率を上げることが知られている。ただし、親の育て方が悪かったというようなあまりにも単純な説明は、今日では受け入れられない。好発年齢は思春期から20歳代半ばであるが、それ以降の発症も多い。一生の間にこの疾患になる率は、諸外国でも日本でも約1%である。平成11年厚生労働省患者調査によれば、日本全国で約67万人の患者が治療を受けている。
 治療の基本は抗精神病薬と、心理社会的なリハビリテーション、ならびに社会復帰のための福祉、地域での支援である。治療薬について言うと、従来は脳内のドーパミン神経系に作用する薬物が用いられてきたが、最近ではセロトニン神経系にも作用する非定型抗精神病薬が導入され、治療効果を高めている。従来の抗精神病薬は、幻覚や妄想、興奮を抑えることはできたが、自発性を高め、考えや感情の筋道をまとめさせることはあまりできなかった。これに対して非定型抗精神病薬は、社会復帰に関わるこうした症状の改善に効果がある。ただし、最も強力とされるclozapineは日本での認可が遅れている。

診断

 診断基準として国際的に認められているものは、米国精神医学会によるDSM-Ⅳである(表1)。以下に、各症状の説明を記す。

(1)妄想
 妄想とは、内容的にあり得ないことを強い確信を持って信じていることを言う。 単に内容が奇異であるというだけではなく、本人がそれを説明する時の論理に飛躍があり、ふつうでは考えにくい理由付けをし、にも関わらず強く確信して訂正しにくい。 もちろん、本人が何か特殊な体験を実際にしており、人に詳しく言いたくない事情がある時には、一見すると判断しにくい場合がある。
ただし、妄想の内容には比較的多く見られるパターンがあり、それらに合致した時には、統合失調症の症状であると考えてよい。 割合に多く見られるのは、誰かに見られている(家のなかにいても外から見張られている、など)、悪口を言われている、意地悪をされている、というものである。 中高生の場合は、いじめ体験と紛らわしいことがある。
単にそのような気がするというだけであれば、対人恐怖やうつ病などでも見られるが、そうした事実がないのに確信しているのが統合失調症の特徴となる。 その他には、自分の考えが世間に広まっている、テレビなどで自分のことを話している、自分の体や考えが誰かの力で操られている、自分のなかに誰かの考えが入り込んでくる(人の意見に影響されるということではない)などの形をとることがある。

(2)幻覚
 幻覚とは「対象のないところに知覚が生じる」ことであるが、統合失調症の場合、この知覚には、単に物音がするとか人が話しているということだけではなく、自分に対して何事かを語りかけているような意味が伴っている。
典型的な例としては、自分の行動に対して「また馬鹿なことをしている、そんなことをするんじゃない」などとコメントを加えてくる声、複数の人間同士で話し合っている声がある。知覚の形式としては幻聴が多いが、皮膚に寄生虫がいる、体がゆがんでいる、内臓がおかしい、体の一部が空っぽになった、などと訴えることもある。 ただし、入眠、覚醒時の幻覚は含めない。
一般に入眠時には、俗に「金縛り体験」と呼ばれる体感幻覚や、動物の姿などが見える幻視が生じることがあるが、これは統合失調症の幻覚とは見なさない。 また、アルコールや有機溶剤吸引の結果として生じた幻覚、身体疾患や投薬に伴って生じる幻覚や、睡眠障害と幻覚の合併した「せん妄」も、統合失調症の症状とは見なさない。
もちろん、統合失調症の患者がたまたまこうした病状となり、幻覚を呈することはあるが、それが統合失調症のためなのか、こうした病状によるものなのかは、その他の症状や経過を見て判断することとなる。

表1:統合失調症の診断基準

A 特徴的症状:以下のうち2つ(またはそれ以上)、各々は1カ月の期間(治療が成功した場合はより短い)ほとんどいつも存在。
(1) 妄想
(2) 幻覚
(3) 解体した会話(例:頻繁な脱線または滅裂)
(4) ひどく解体したまたは緊張病性の行動
(5) 陰性症状、すなわち感情の平板化、思考の貧困、または意欲の欠如
注: 妄想が奇異なものであったり、幻聴がその者の行動や思考を逐一説明するか、または2つ以上の声が互いに会話しているものである時には、基準Aの症状1つを満たすだけでよい。
B 社会的または職業的機能の低下:障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能が病前に獲得していた水準より著しく低下している (または小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)。
C 病状の持続が6カ月以上
D うつ病、躁病の合併がない
E 物質乱用、身体疾患によって生じたものではない
F 自閉性障害の既往があった場合には、幻覚や妄想が1カ月以上(治療した場合には短くてもよい)続いた場合のみ、診断する。

※:C~Fは要点のみ記載。

(3)思考と行動の障害
解体した会話とは、文法的に通じない発言をしたり、頻繁に筋道から脱線してしまうものを指す。 そのために会話をすることが、非常に難しくなる。 また、行動の解体というのは、過度に子供じみていたり、目的にそぐわない行動をするために、ごく簡単な日常生活をすることもできなくなってしまうものである。 いずれも、それが持続しており、他に明らかな原因がない場合に限って判断をする。 また、行動の解体が顕著になると、緊張病性の症状(激しい興奮、拒絶、奇妙な姿勢など)が生じるが、一般外来では非常にまれである。

(4)陰性症状
上記のような明らかな症状がなく、単に思考や行動のまとまりのなさ、能率の低下、ひきこもりなどだけが生じることもある。 しかし、こうした症状は他にも広く見られるものなので、この症状だけから診断をすることは難しく、基本的には避けるべきである。
ただし、治療の後で陰性症状だけが残ることは非常に多く、社会復帰のためには、この症状の改善が重要である。

社会復帰とスティグマ

患者の症状のなかには、被害妄想といって、自分が他人から悪口を言われている、意地悪をされていると信じてしまうものがある。また、幻聴によって怖いことを言われ続けたという人もいる。その症状が治ったとしても、こうした体験をした人が、その後も周囲の目を気にしたり、人とのつきあいのなかで気疲れをしやすいことは、容易に想像ができるであろう。しかも患者の多くは、もともとが自己主張の強いタイプではない。こうした患者の多くが社会復帰をしていくためには、心理社会的なリハビリテーションと支援が必要である。リハビリテーションというのは、作業や仕事、社交などの能力を高めることが目的だが、それと同時に、人間の集まる場のストレスに順応し、対処能力を高めることも必要である。

こうした患者の、あるいは家族の意気をくじくのは、社会からのスティグマないし偏見である。自己を主張しにくい統合失調症の患者は、スティグマの影響を受けやすい。スティグマの原因はさまざまである。たとえば報道では、患者の日常の姿が報じられずに、犯罪事件に関心が集まってしまう。もう1つの原因として、この病気が「精神分裂病」と呼ばれていたことがある。精神のまとまりにくさは、誰であっても、また、他の疾患の症状としても、多かれ少なかれ見られるものである。あえてこの病気に対して、精神分裂などという恐ろしげな名前を付ける必要はない。

実は原語ではschizophreniaとなっているが、これは言葉の連想が分断した精神障害という意味であって、精神そのものが分裂したという意味ではない。この疾患の名称が統合失調症に変更されたのは、医学用語自体がスティグマの源泉となるという事態を避けるためである。それと同時に、この病気について、誤解の少ない理解を一般に広めるために、表2のような説明が用意されている。

【 文献 】
1) 高橋三郎, 大野 裕, 染矢俊幸 訳
  DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の分類と診断の手引, 医学書院, 東京, 2002

表2:統合失調症の一般向け説明

(日本精神神経学会「精神分裂病の呼称変更委員会」作成)
「統合失調症」とは、以下のような特徴を持った精神障害のひとつです。

1 統合失調症とは、直接の原因がないのに考えや気持ちがまとまりにくくなり、そのために本人が困難や苦痛を感じたり、回復のために治療や援助を必要とする状態を指します。実際には、いくつかの異なった病気の集まりであろうといわれています。失調というのは、一時的に調子を崩したという意味で、回復の可能性を示します。
2 根本的な原因はまだわかっていませんが、何らかの脳の機能異常と心理社会的なストレスなどの相互作用が関係すると考えられています。
3 日本全国で67万人の患者さんが治療を受けておられます*)。また、一生の間にこうした状態になる率は、およそ100人に1人とされています。
4 まとまりきれない心の内容が、現実とは異なった形を取り、幻覚や妄想となることがあります。これは脳内の情報伝達物質がバランスを失ったためで、その多くは薬が効きます。幻覚や妄想は、他の病気にも見られるものです。
5 薬や心理社会的な介入による新しい治療法が普及し、社会参加をめざしたリハビリテーションも進歩しました。早期に適切な治療を行うことによって、今では多くの患者さんが回復し、社会参加しています。ただ、一部には疲れやすさや神経の敏感さが残ることもあります。
6 どうやって社会参加を支援していくのかということが、これからの課題です。そのためには心ない偏見を無くしていくことが重要です。

※:平成11年厚生労働省患者調査

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