公益社団法人 日本精神神経学会

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学会案内|About Japanese Society of Psychiatry

理事長から就任の挨拶

更新日時:2019年9月3日

理事長再就任に際しての所信表明:
精神医学・医療のパラダイムシフトを前にして

 このたび本学会理事長に再任され、改めて責任の重さを感じています。本学会が掲げる理念と目的を再確認し、これまでの2年間で十分達成できなかった課題および新たに挑戦すべき諸問題を整理し明確にすることから新体制を始動したいと思います。この機に、会員諸氏には忌憚ないご意見ご批判をお寄せください。

 過去2年間を振り返って、今の私自身が抱く思いは、方向の定まらない新専門医制度に多くの時間を取られるなか、他の重要な諸問題に対して十分に力を注げただろうか、という懸念です。新専門医制度は、その開始にあたり「医師偏在を助長しない」制度と位置づけられたはずのものが、2019年に入り「偏在解消の手段」へと変容したように思えます。しかも専攻医募集定員シーリングの設定に、およそ精緻とは思えない方法で算出された、「精神科の医師数は相対的に過剰」とする暫定値(医師需給分科会第4次中間取りまとめ)が導入されました。本学会は最後までこのことに異議を訴え続け、精神科七者懇談会は精神科医療の実態を10項目にわたり詳しく分析した報告書を関係各所に提出しました。本学会は引き続きこの暫定値の再検討を要求していきます。

 一方で医師の地域偏在は紛れもない現実です。医療過疎地では十分な指導を受ける機会が乏しいなか、日々の臨床に奮闘している精神科医たちがいます。学術総会、そして各種委員会の研修会は年々充実してきています。しかし、現場を離れて遠隔地の学会や研修会に参加することが困難な医師たちは多いはずです。そこで、全国のどこにいても、卒後研修から生涯教育にわたり学習の機会をもてるように、教育資材、特にeラーニングの充実を図りたいと思います。ちなみに2018年のeラーニングの視聴数はのべ8,700人を超えました。会員の間にウェブ学習への抵抗感が少なくなっているようです。世界中にファンをもつTEDカンファレンスに倣い、幅広いテーマを設定し、あの人のあの講義をぜひ聴きたい、と思えるような魅力的なビデオ教材の制作を加速させます。

 卒後の精神科研修では、知識と技術の相互研鑽に加えて、当事者の気持ちや価値観、人生観を尊重した治療を行える精神科医の養成が求められています。かねてより精神科医療では、他分野の医療に先駆けて、当事者の声を聴き、当事者の体験を治療に生かす試みが行われてきました。本学会としても、当事者・ご家族の視点を取り入れて旧提言を改訂し、「精神疾患の克服と障害支援にむけた研究推進の提言」を2018年に発表しています。今後、学会をあげてこの流れを推し進めるために、新たに検討委員会を立ち上げたいと思います。

 発表が遅れたICD—11が2019年5月のWHO総会で正式承認されました。導入期間をおいて、2022年には全世界で疾病分類が切り替わります。本学会は、精神医学用語の訳語を統一し、ICD—11「精神、行動及び神経発達の疾患(仮)」の診断ガイドラインの翻訳を進めるとともに、ICD—11を適切に使用するためのさまざまな教材を準備します。

 各種委員会において若手会員や女性会員のさらなる活躍を期待しています。とくに女性会員の活躍は今期理事会の重要課題の1つであり、男女共同参画推進委員会と理事会とが協働して、具体的な方策を提案したいと思います。また、前期委員会から継続して検討している重要かつ難解な課題に、「身体的拘束に関する多施設調査」と「旧優生保護法問題」があります。これらの検討においても一定の見解をまとめる必要があると考えています。

 2年前に理事長に就任した際にも書きましたが、日本精神神経学会の諸活動が究極的にめざすところは、「当事者・ご家族から信頼していただける最善の精神科医療をこの国に築く」ということに尽きると考えています。このことを実現するためには、本学会、大学、総合病院、精神科病院、精神神経科診療所、その他の関連する諸施設、諸団体、多職種が相互に緊密に連携することが欠かせません。引き続き会員諸氏のご理解とご協力をお願い申し上げます。

日本精神神経学会理事長
神庭重信

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