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コラム 精神科医が考えていること

『全員がゲートキーパー
~自殺防止のために~』

聖マリアンナ医科大学病院 神経精神科
山口 登

警察庁によると、「2010年の自殺者総数31690人。
前年より1155人減だが13年連続で3万人台を超えた。」という。
男女比は7:3、年代では50歳代、60歳代が依然として多い。
自殺の動機で遺族らに心当たりがあるのは全体の7割強で、「健康問題」47%、「経済・生活問題」22%、「家庭問題」14%、「勤務問題」8%、「男女問題」3%である。

これらの問題から「中高年期のうつ病が誘因となるものが多く、うつ病罹患後の自殺が大多数を占めている」ことが推測される。 うつ病は精神症状ばかりでなく身体症状(食欲減退、体重減少、不眠、易疲労感、 その他の自律神経症状)が出現すること、また慢性身体疾患(心筋梗塞、糖尿病、悪性腫瘍)との関係も指摘されている。 2011年以降には東日本大震災関連の種々(直接的および間接的)ストレスによる身体的・精神的不調の長期化も予想される。
わが国では自殺既遂者の大多数はその1ヶ月前までに医療機関(精神科以外の身体診療科)を受診していることが多いと報告されている。 未だに精神疾患に対する偏見があり、気軽に精神科を受診できない風潮があるのかもしれない。
また、身体的健康問題と同時に労働環境の悪化(仕事の喪失、職場の人間関係、長時間労働など)が誘因となるケースも多い。 したがって、自殺防止のゲートキーパーとして、プライマリケア医および企業における産業医のメンタルヘルスに関する役割は大きい。

自殺率の高い地域を中心に厚生労働省や各地域の研究事業として自殺予防対策が図られ効果が発現しつつある。 うつ病の地域住民への啓発、楽しみの機会の創造、地域の相談システムの確立、うつ病スクリーニング法の提示、 一般開業医師と精神科医の連携などサポートシステムの充実が図られている。
日本人の一部には他人に弱音を吐かないことを美徳とする風潮があり、自殺既遂者は一人で悩み孤立し、 自殺企図前に周囲に相談する割合が低いことが推測される。そこで、ユニークな自殺防止対策として、 多重債務者や中小企業経営者らの相談強化として弁護士や司法書士、産業カウンセラーの対応や保健所が働きかけ美容師、 理容師への自殺対策研修、スナックのママさんを対象としたゲートキーパー研修も計画されている。
悩みを打ち明けさせ、支持することは気分を和らげる。周囲の人たちは声をかけ、悩みを聴くこと、 そして変化に気付くことが重要である。加えて、うつ病は誰にでも起こりうる病気であることを認識することである。 中でも、職場や家庭など周囲の人たちの気づきと声かけが最も重要と考える。 すなわち、医師などの医療従事者ばかりでなく、周囲の人たち「全員がゲートキーパー」である。

WHO(世界保健機構)の国際調査では自殺既遂者のほとんどは適切な治療を受けていないという。
周囲の皆の力で、医療へつなぐ連結がスムーズになり、早期より適切な医療を受けることにより、うつ病患者本人は勿論、家族や友人などを苦痛から救うことが可能と信じる。