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コラム 精神科医が考えていること

『精神疾患とアウトカム向上について』

富山大学大学院医学薬学研究部神経精神医学講座
住吉 太幹

 統合失調症などの精神病性障害や、うつ病などの気分障害を含む精神科疾患の治療ゴールは何でしょうか? 幻覚・妄想などの陽性症状や抑うつ気分の改善などは、確かに解決しなければなりません。 それのみであれば、抗精神病薬や抗うつ薬を用いた薬物療法や、短期の心理社会療法だけで事足りるでしょう。 一方、就労や復学など地域社会への適応や機能(=アウトカム)を相応に高めるレベルを目標とすれば、 「疾患ではなく、患者を治す」ことにつながります。 日常診療やそれに直結する臨床研究に携わる精神科医は常にそのことを意識しており、筆者もその一人です。
 最近、治療によるアウトカム向上の過程を少し細かく考えています。専門用語を用いると、まず”機能的能力 (functional capacity)”がつき、そこから最終目標である”機能的遂行力(functional performance)”が高まっていくというモデルが、 使い勝手が良いようです。 わかりやすい例として、一般に日本人は、かなり抽象的な英語の単語・語法の知識を有し、 その機能的”能力”は相応の水準にあると思います。一方、大学教養過程を修了した大学生でも英文を綴らせた場合、 中学生レベルのミスを犯すこともあり、その機能的”遂行力”は弱いと感じています。 余談ですが、このような状況が医学部にも当てはまるのは問題であると思われ、 筆者は大学で精神科の講義に加え、学部生を対象とした医学英語演習(ライティング、オーラル・コミュニケーション)にも力を注いでいます。
 精神病における機能的”能力”の回復としては、買い物でおつりの額を予想できるなど生活技能がつくことが例に挙げられます。 このレベルの達成であれば、抗精神病薬や認知矯正療法などにより、 記憶や注意などのいわゆる認知機能を、ある程度高めることのみで実現できるかもしれません。 一方、やや複雑な労働や勉強を一定時間こなすなどの”社会機能”や、他人と何らかの形で充分な時間を共にするなどの”社会適応” を改善するには、もうひと工夫必要です。その役割を果たすものとして、心理社会療法、 精神科リハビリテーション、家族支援などがあげられます。
 具体的な方法としては、認知行動療法、認知矯正療法、ソーシャル・スキルズ・トレーニング、 家族心理セミナーなどがあります。これらには筆者も関わっていますが、心理・看護・ 福祉領域のコメディカルスタッフの方々の協力がなければ成り立ちません。 機能的”能力”獲得のレベルから機能的”遂行力”実践のレベル (先の例になぞらえると、”医学部生に英語運用力をつける”)に持ちあげるには、 このような多職種による計画的なリハビリテーション及び社会復帰支援(”医学英語演習”)が不可欠なのです。