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コラム 精神科医が考えていること

『精神科クリニックの、ある日の風景』

川名 明徳

 「お大事に…」の言葉を背に、患者さんが待合室へと出て行く。 開いた扉の隙間から受付の電話のベルが聞こえる。 受付が受話器を取り、電話の相手とのやりとりが耳に入ってくる。 聞くとはなしに聞いていると、受診を希望している初めての患者さんからの電話のようである。 一通り話を聞いた後、担当者は気の毒そうな口調で「申し訳御座いません、 当院は予約制になっておりまして、 初めての患者様の場合ですと予約待ちの患者様がかなりいらっしゃいまして、 今からですと数ヶ月待ちになりますが・・・、お急ぎでしたら近くの・・・・ クリニックや病院をご紹介申し上げますが、如何でしょうか・・」と応対している。 その後の相手との会話は不明であるが、そのまま電話を切ったところをみると、 受診は諦めたのであろうか。しかし調子が悪いので受診したいのに、 3~4ヶ月待ちでは患者さんもたまったものではないであろう。その患者さんが今後どうするのか分からないが、断った手前余計に気がかりである。
こちらも診察時間が取れないことで苦しんでいる初めての患者さんを断ることは意に反する。 しかし断らなければ診療が滞り、待っている患者さんを更に長時間待たせるということになりかねない。 新患の診察には最低1時間は取ってゆっくりと相対することもあり、 その間は再来はストップするが、患者さんたちは大人しくじっと待っている方が多い。 しかも1~2時間待たされてようやく診察室へ入ってきた患者さんから 「今の方は初めての方ですか? 大変でしたね。お疲れ様です。」と逆に労われる。 このような心根の優しい人達だからこそ他人や周囲に気を回し過ぎて、患者さんになるのかもしれない。
ここ10数年ほどの間に、色々な啓蒙活動やTV広告から精神科や心療内科への敷居が低くなったことも有り、 精神科、心療内科のクリニックを受診する患者さんが増加している。 一方、精神科、心療内科のクリニックの開業も多くなったことは統計上でも示されている。 しかし精神科、心療内科クリニックの多くが患者さんで一杯になっているうえに、 最近は予約制にしているクリニックが増えてきており、当日の初診受付が出来なくなっている面もある。
現実、予約制でないクリニックでは患者さんが待合室から溢れ出し、 玄関の外で待っていたり、4~5時間待ってようやく診察を受けられたとか、 診察が終わったのが夜の11時を回っていたなどの話を聞く。 患者さんが納得行くまで話を聞いているので、一人当たりの診察時間が長くなる。 新患が入ればさらに時間がかかり、そのため積もり積もって4~5時間待ちという結果になる。 待っている患者さんも大変であるが、クリニックの医師も大変であろうし、陰で支えるスタッフは更に大変であろうと頭が下がる。
これらのことを考えると、予約制が良いのか、予約制でないほうが良いのか一概には言えず、 予約時間に来院した患者さんを待たせることなく診察するか、 苦しがっている初めての患者さんを受けるかのジレンマに陥り、色々考えつつ解決法が見つからないまま「次の方、 どうぞ…」と声をかけ、日常の診察が続いていく。

春とは名ばかりで、外は雪であった。