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コラム 精神科医が考えていること

『今、読書を見直す -様々な生き方を知ることの大切さ-』

大阪市立大学神経精神医学教
井上 幸紀

 私は文章を読むのが好きである。新聞、雑誌、様々な本、ジャンルもあえて問わない。理由はただ一つ、 文章を通して様々な人生模様(架空であっても)に出会えるからである。 小学生の時に読んだ漫画「荒野の少年イサム」は今でも覚えている。 西部開拓時代、アメリカのある都市に置き去りにされた日本人の赤ちゃんが、 ならず者に拾われた後、様々な困難に出会いながら一流ガンマンになる過程と、子供を捜し彷徨っていた父親との邂逅がストーリーであった。 実際の自分にはありえないことだが、自分だったら・・・などと想像し感情を移入し、どうしよう、どうなるのだろう、 などと考えながら次の号の発売を心待ちにしていた。
 若い人は、テレビは見るが、本を読まなくなったと聞く。同じ情報を得るのであっても、テレビと本は違う。 本は自分の意志で読む。集中を要し、読み流すことにはかなりのテクニックがいる。 それに比べてテレビやラジオの放送はむこうから流れてくるので、受動性が高く、聞き流す、一部を見るなどが可能で、 その世界に入り込みにくい。また映像が具体的(主人公が芸能人など)であれば、自分に置き換えて考えることは少ない。 想像力を発揮することが少ないのである。
 誰しも人生は一回であり、それなりに波瀾万丈である。 振り返ってみると、よくぞここまで乗り越えてきたと考えることも多い。 今になって思うと、様々な新しい出来事に遭遇した時、想像上のものであっても、小説や漫画で得た知識や経験があれば、対応はしやすかったと思う。 逆に、全く知識や経験のない出来事に遭遇するとアタフタしてしまう。 感情を入れて文章を読み、そこから得た知識や経験は、人生を歩む中、私にとって、ある一定の判断指針になってきたようである。
 新しいタイプのうつ病が注目を浴びている。自由気ままな学生時代を過ごし、 耐えることを知らずに社会人となり、不況に喘ぐ日本社会で働き出したあと、 これまでの生き方や評価とのズレから、うつ症状を呈するのも一つの形であろう。 診療をしていて、新しいタイプのうつ病にあてはまる人には、狭い世界での価値観や生き方に固執する人が多い印象を持つ。 様々な価値観や今後の生き方についても治療上話し合うのだが、様々な本を多く読めば得られることもあるのではないかと思う。 先が見えない社会だからこそ、次にどんな社会風景が出現しても驚かずに対応できるよう、 様々な本を読むことで知識や経験値を増しておくことは大切だと感じている。 かくいう私も社会の変化についていくために、多くの本を読み様々な立場の人と真摯に話し合うことが必要であると思っている。 皆さん、いっぱい本を読みましょう、読ませましょう!