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コラム 精神科医が考えていること

『認知療法・認知行動療法について』

慶應義塾大学
大野 裕

 平成22年4月から、認知療法・認知行動療法が保険診療の対象になりました。 認知療法・認知行動療法というのは精神療法(心理療法)のひとつで、ものの考え方や受け取り方を振り返って気持ちを楽にしたり、 問題解決能力や対人関係能力を伸ばしたりする治療法です。
 気持ちが動揺したとき、こころの中で考えていることを、ちょっと振り返ってみてください。 意識しないうちに、極端な考えにしばられてしまっていることに気づけるのではないでしょうか。
 落ち込んでいるときには、「自分はなんてダメな人間だ。他の人も負担に感じているだろう。これから良いことなんてあるはずがない…」と、 悲観的に考えがちになります。 不安になってくると、「何か大変なことが起きるんじゃないか」と危険にばかり目が向くようになります。 また、怒っているときには、相手の問題点ばかりが気になって、ますます腹が立ってきます。
 もちろんそうした考えがすべて間違いというわけではありませんし、その人が悪いというわけでもありません。 うつ病や不安障害(パニック障害や社交不安障害など)などの精神疾患のために、いつの間にか考え方が極端になってしまって、うまく問題を解決できなくなってしまうのです。 そうした時に、もう一度現実に目を向けながら、自分の考えから少し自由になって、しなやかに考え行動し、 気持ちが軽くなるように手助けしていくのが認知療法・認知行動療法です。
 認知療法・認知行動療法は、1980年代後半から治療効果が注目されて、世界的に広く使われるようになりました。 その治療法がわが国でも保険診療の対象になったのはとても喜ばしいことなのですが、まだまだ解決しなくてはならない問題が残っています。
 そのひとつに、薬物療法と認知療法・認知行動療法のどちらを選ぶかという極端な話が話題になるという問題があります。 でも、実際はどちらか一方だけが良いわけではなく、どちらも役に立つのです。ですから、こうしたいくつかの方法を上手に使って治療をしていくことが大事です。
 もうひとつ、認知療法・認知行動療法を提供できる医療機関がまだ少ないという点も問題です。 これから、国や専門家が力を合わせて提供できる施設を広げていく必要があるでしょう。 それまでは(その後も)、患者さんが認知療法・認知行動療法を扱った一般書や「うつ・不安ネット」などのウェブサイト・ モバイルサイトを活用してセルフカウンセリングを行い、そこで疑問に思ったことを主治医に聞くという方法が役に立ちます。
 私は、今後、認知療法・認知行動療法が、医療機関はもちろん、「こころの健康政策実現会議」 (http://www.cocoroseisaku.org )で提言されたようなアウトリーチ(地域での保健医療福祉活動)などでも活用されるようになることを期待しています。